2010年2月アーカイブ

指揮なしパレード 3

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悠太が「いーたなってだれ?」と真似をして得意げに笑い、志保はまだ日向の話をしていなかったことに気づいた。誰にどんな話をしたのか覚えていないし、気にもしていない志保にとっては、よくあることだった。

「あれ?話してなかったっけ?」

 

影山日向はカルチャースクールの絵画教室で友達になった22才の男子だ。志保はカルチャースクールなどというおよそ似合わないところに、断続的だがもう4年も通っていた。その志保が「自分以上にカルチャースクールが似合わない人間」と思うのが、日向だった。

金髪坊主頭で、そのくせ妙に腰が低くて人当たりがいい。影山日向という名前からしてカゲなんだかヒナタなんだか、さっぱりつかみどころがない男なのだ。 

「ぜんぜん彼氏なわけないって。だってその子、ゆとりだもん。まあ、あたしの世代も微妙にゆとりだけど」

ゆとりねえ、といずみは苦笑し、ため息のような一呼吸を置いた。

 

「ランチも食べたし、ドッグランを見に行かない?その前に、この子たちのおむつ、替えていいかな。悠太、このあいだ大風邪で寝込んで以来、なぜかおしっこが言えなくなっちゃったのよ。やっと言えるようになったのに。うんちは教えてくれるんだけど......」

最後はひとり言のようなつぶやきに変わっていたことに気づき、いずみははっとした。これじゃまるで自分がうまく子育てできていないことを白状しているみたいだ。和喜が「悠太おまえ、なんで逆戻りしてるの」と笑った時、暗に自分を責めているように聞こえて、やりきれなかった。いずみは怒ることも反論することもなく、黙りこくったまま、まだ開封していないおむつのビニールパッケージをちぎって開けた。力任せに。

昔はお互いにもっと素直な会話ができたのに、今は文句を言いあうことも途中であきらめてしまい、けんかにすらならない。なにかが少しずつズレてしまっている。

 

「いつからズレたのかな......」

「ん?どうしたの?」

志保がきょとんとした顔で見つめたので、いずみはあわてて話題をそらす。

「なんでもない。しーちゃんの話って、次々といろんなキャラクターが登場して、なんだかパレードみたいだね。面白いよ」

「パレード?パレードにしては統率っていうの?そういうの取れてないし、テーマもないじゃん。指揮者がいなくてばらばらって感じ。いずみちゃんみたいに、ちゃんと仕事してちゃんと結婚して子供産んでっていうふうに、正しく前に進んでないもん」

いずみは弱々しい微笑みを浮かべて志保を見た。忘れていた梅雨前の蒸し暑さが、体のまわりに戻ってくる。私は正しくまっすぐ進んでなんかいない。迷ってばかりだ。

 

いずみの作り笑いに気づいたのか、志保がいそいそとサンドウィッチの包み紙やお菓子の袋を片づけ始めた。意外と勘の利く志保は、もしかしたら私を元気づけようと気を遣っているのかもしれない。

「早くドッグランを見に行こうよ」

レジャーシートを畳んでしまうと、おうちごっこみたいだった芝の上のスペースはすっかり消えうせてしまった。楽しいパレードが終わってしまった時のようで、いずみはしばらく芝生の上で立ちすくんだ。

 

「なんかさ、今日はいずみちゃん、元気ない。なんで?あ、わかった。オイちゃんが来なかったからでしょ?」

確かに、和喜が約束を破ってここに来なかったことは、今日の重たい気持の原因ではある。でもただのきっかけに過ぎない。本当の原因は、もっと別のところにあるのだ。和喜の発する言葉ひとつひとつを素直にきけない理由が、いずみにはある。確信が持てないために責めることもできず、自分の疑いが間違いであればいいと思っている。

「急に仕事が入っちゃったんだからしょうがないよ」

志保がどこまでも無邪気に言うので、いずみは少しいらだった。こんなのはただの八つ当たりだとわかっていても、いらだちを抑えることができなかったのだ。

「どうだろう。今ごろどっかで可愛い女の子と遊んでるのかもしれないよ」

自分の声が思いのほか低く透明に響いたことに、いずみは驚いた。ベビーカーを押しながら前を歩いていた志保が立ち止まり、寂しそうな笑い顔で振り向く。

「......まさかあ。オイちゃんはそういうことしないタイプだよ。うん。絶対」

 

しーちゃんがそうであればいいと思ってるだけでしょう、絶対なんてこの世にはあり得ないのよ。その言葉をいずみは口には出さず、胸の中に引き留めた。

由香はベビーカーの中でお気に入りのサッシーのおもちゃを握ってちんまりと座り、いずみと手をつないでいる悠太は走りたくて前のめりに歩いている。あんたたちのママはちょっと疲れているみたいよ。そのつぶやきも心の中の戸棚にしまって鍵をかけた。

 

広い芝生の上ではたくさんの人間が休日を過ごしていた。その真ん中を突き抜けていくと、ドッグランのあるエリアにたどりつく。ところがドッグランが見えてくると、悠太は体を固めて「やだよ」と怖がり、動かなくなってしまった。志保が悠太を連れてフェンスに近づくと、悠太は逃げ戻っていずみにすがりつき泣きだした。

「やっぱりダメか。悠太も由香も動物が苦手みたいなのよ。このあいだくすぐりエルモのおもちゃをもらったんだけど、あれも怖がってたのよね」

気づけばもう午後3時を過ぎていた。曇っていた空はますます暗くなる。そろそろ帰った方がよさそうだ。

 

こうして志保たちの梅雨入り前のピクニックは、尻つぼみに終わってしまった。

芝生を逆戻りし原宿門へ歩きながら、志保はバドミントンで遊ぶカップルや並んでルミカを振り回す女の子達を眺めた。誰もが悩みもなく楽しそうに笑っている。この人たちのパレードはまっすぐに進んでいるのだろうか。ちゃんと指揮者がいるのだろうか。

そして横を歩くいずみにそっと視線を移し、思った。

 

いずみちゃんのパレードがばらばらになるのは、寂しいことだ。

かといって、あたしはなにをしたらいいのかわからない。なにができるのかわからない。いずみちゃんを元どおりの明るいオレンジ色に戻すには、どうしたらいいんだろう。

指揮なしパレード 2

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電話口で、いっきなりお母さんが怒鳴りやがって。

「整形って、どういうことなの!」

予想外の展開......ていうか早っ!おまえら昆虫かよ?あ、こないだテレビで、昆虫がフェロモンを使って素早く伝達するっていうのを観たばっかりだからさ、そう思っちゃったんだけど。とにかく情報伝達、早っ!まあ、社内の誰かが伯母さんにチクって、母親の耳に入ったんだろうけどね。あたし的には、もう少し時間をかせいでまぶたの腫れがひいたら、親と直接会っても大丈夫かな、と思ってたのに、これじゃ計画倒れじゃん。

 

「や......やだなあ、整形なんてしてないよ」

とかいちおう答えてみたんだけど、声がうわずっているのが自分でもわかんの。これじゃ「あたし嘘ついてます」って言ってるようなもんじゃん。

 

したらさ、電話の向こうが一瞬だけ静かになった。この沈黙ってかなりやばいんですよ、ほんとに。嵐の前の静けさっての?予想どおり、そのあと怒涛の攻撃がスタートしたわけよ。

「あなた嘘ついてるでしょう、あなたの嘘はすぐわかるのよ、整形したってどういうことなの、芸能人でもあるまいしどういうつもりなの、お父さんにはなんて言うつもりなの、いつやったの、どこでやったの、いくらかかったの......」

こんな感じで、何をどういう順番で怒鳴られたのか覚えてないけど、すげー攻撃力。

 

「だからー、整形って言ってもたしたもんじゃないってば......矯正、ほら、歯の矯正とおんなじようなもん。お姉ちゃんなんか子供のころ矯正やってたじゃん。あっちの方がよっぽどすごいって」

あたしが反撃したら、逆に相手の攻撃力がアップしちゃって。

 

「歯の矯正と整形はぜんぜん違うわよ。ぜんぜん!」

「どこが違うってのよ?出っ歯が治って、顔、変わってたじゃん!」

「出っ歯は体に悪いの!一重は体に悪くないじゃないの!」

「でも出っ歯だからって死ぬわけじゃないでしょ!」

「お母さんは出っ歯の話をしたくて電話してるんじゃないんです!もう、あなた27才にもなって何やってるのよ。やっとちゃんとした会社で働くようになったと思ったら、夜はふらふら遊んでいるみたいだし、おまけに整形ってどういうことなの。会社だって業務縮小でお給料が減ってるんでしょう?結婚する気配もさっぱりないようだし、先のことをもう少し考えなさいよ......お母さん悲しいわ」

 

だからー、いずみちゃん、ここ笑うとこじゃないから。あたし的には"嫁にしたくない女ナンバーワン"の次はこれかよ、みたいな感じでかなり落ちたわけよ。27才にもなって何やってるの、将来のことを考えなさいって......いちいち言われなくても、そんなことわかってるっつーの。とか考えたら体も頭も重くなっちゃってさ、生理前だったからよけいに。その時テレビついてたんだけど、バラエティ番組とかぎゃーぎゃーうるさいから消えろ!みたいにひとりでキレてテレビ消してみたり。

 

で、なんとなくあいつのこと思い出した。あいつだよ、聡史。そうそう、説教好きのモトカレ。ひとにあれこれ指図するのが生きがいみたいな男。聡史にもよく言われたんだよね、「ちゃんとしなよ。志保はなにがしたいの。やりたいことってないの。人生の夢とか目標とかないの」って。

はじめはあたしも、それが聡史なりの愛情で、あたしのことを心配してくれてるんだなー、って信じてた。でもだよ、聡史ってあたしのケータイをチェックしたり、部屋の引き出しをあさったりしたじゃん?ありえなくね?別れ話をすると半泣きになるし、途中で逆ギレするし、殴られたらどうしようってちょっと怖かったんだけど、さすがにそこまで最低男じゃなかったね。別れるって決めた時なんかさ、「オレ、まだ志保のこと好きだから。30才になってお互いにまだひとりだったら、絶対に結婚しような」とか涙声で言ってて、若干かわいそうだった。

あ、この話、前にもしたか。えっと別れたのは1年くらい前だったかな、今は普通に友達。メールしたり、たまーに飲みに行ったり。まだ「30才になったら」とか言ってるけどね。まじでほんとに友達だって。だってしてないし。したそうな時も正直あったけど、さすがに阻止したし。ていうか、いずみちゃん、疑ってんの?

 

あー、また話がズレた。

とにかく親に説教されて思ったのは、やりたいことがなくちゃダメなの、ってこと。夢や目標がないとダメなわけ?テレビのドキュメンタリー番組なんかでよく「たび重なる困難の中、それでも彼女は夢を捨てなかった」みたいなナレーションが入るじゃん。いろんな歌も「夢を持とう」みたいな歌詞ばっかじゃん。

夢ってそんなに大事っすかね?

そんなに大事なら、夢も目標もないあたしは、救いようのないダメ人間だよね。

だいたいさ、二重にするのはずっとやりたかったことだし、ある意味あたしの夢だったんだよ。思いつきなんかじゃないし、いちおうちゃんと病院も調べて、お金も貯めて、自力でかなえた夢なわけ。普通の毎日の中の、普通の夢。そういう、普通に目の前にある毎日を生きてるだけじゃダメなのかな......なんて、それこそ27才のいい大人が考えることじゃないよね。10代ならまだしも、27才って言ったら、普通は夢を実現してる年齢だもん。

子供のころによく「将来の夢はなんですか?」とか大人に聞かれるじゃん。その将来って今なわけで、今の私はこういうぼやんとした人生送ってて、挙句の果てには"嫁にしたくない女ナンバーワン"とか言われてるし。抱かれたくない出川とかエガちゃん以下だよ。だって出川やエガちゃんは芸人じゃん。あの人たちの夢がなんだったか知らないけど、まあいちおう芸人になってるわけでしょ?

 

とかいろいろ考えてたら、さらに重くなっちゃって、誰かにメールしたくなったから、いちばん最初に思いついたヒナタに「整形して二重にした」みたいなメール打ったの。そしたらすぐ返事が来て「豊胸もやったら教えてください(写メ付きで)」だって。なんだよ"カッコ写メ付きで"って。バカだよなーこいつ、と思ったら、少し元気になってさ......。

 

志保がここまで話したところで、悠太のパンくずだらけの口をハンカチで拭いていたいずみが、突然手を止めた。

「ちょっと待った!ヒナタって誰?もしかして、しーちゃんの新しい彼氏?」

指揮なしパレード 1

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代々木公園には芽衣子も誘ったけれど、その日は仕事だと断られた。いずみはオイちゃんと一緒に子連れで来ると張り切っていたのに、オイちゃんも仕事で来られなくなり、志保はちょっと寂しかった。人数が少なくなったからではなく、みんな仕事を頑張っていてえらいな、と思うと、自分はなにも頑張っていないような気がして寂しかったのだ。

 

待ち合わせの時間に遅れてきたいずみは、いちおうメイクはしていたものの、頭の後でひとつにしばった髪はおくれ毛だらけだし、Tシャツは汗だくだし、まるで校庭を10周くらいダッシュしてきたみたいだ。母親って、どうやらたいへんな仕事らしい。

 

志保がまだ高校生だった頃、体育の教師だったいずみは、それこそ毎日うす汚れたジャージで校内を歩いていたけれど、もっとオレンジ色の印象だった。たとえばフロリダ産完熟バレンシアオレンジみたいな、輪郭のはっきりした色。

今も印象としてはオレンジ色をしているのに、心なしか淡い。短い産毛で覆われたビワみたいに、かすみがかかっている。

もちろんあの頃から10年以上経っていて、年をとったせいもあるかもしれない。でもそれだけじゃなくて、なんとなく疲れて見える。

今日、オイちゃんがドタキャンしたことと関係がありそうだ、と志保は思った。

 

「結婚したり子供がいるからって、頭の中が大人になるわけじゃないよ」

そう言ういずみのオレンジ色はビワよりも淡くなり、オレンジフルーチェくらい白に近づいた。

だから、とりあえず何か面白い話をしよう、と志保は思った。たとえば整形の後日談とか。

ちょっと振ってみると、いずみは食いついてきた。よし、これで少しはオレンジ色の彩度が上がった。

あともう一息。

 

「で、会社のジジババ達にバレたわけよ」

「うっそ。すぐにバレたの?」

「即日だよ」

「やだほんとに?ちょっと聞きたいわ、その話」

 

よし、これでテンションもあがった。

志保はペットボトルの緑茶をごくりと飲んで、整形後に初出勤した日のことを話し始めた。

 

朝、出勤していきなり課長に言われたわけよ。

「あれー、志保ちゃん。なんだか顔、変わった?変わったよねえ?」

ほんと、まじかよ、って感じだった。まじかよ、このメタボオヤジ。大手の会社だったら、これってセクハラ確実だっての!とは思ったんだけど、とりあえずいつもの"あたし何にも知らないバカなんです"笑いでヘラヘラしといたの。

そしたら隣の席の浜田さんがさ、浜田さんて、暑い寒い眠いやる気ないとか、ぜんぶ「更年期のせいね」で終了させちゃうおばちゃんなんだけど、その人が、老眼鏡をはずしてあたしに顔、近付けてくるわけ。距離10センチくらいまで。チューしますか的な近さ。近いっつーの。ていうか老眼って近いところ見えないんじゃなかったっけ。まあいいや。

 

「あら、ほんと。ちょっとあんた、腫れてるじゃないのよ。もしかして、なんかやったんじゃないの?」

「まさか。なにもやってないですよ。ちょっと昨日、いろいろあって泣いちゃったんです」

「あらそう?いろいろね。若いといろいろあっていいわねえ」

とか言って浜田さん、ニヤーっと笑ったんだけど、もうね、どう見ても「お前の嘘などまるっとお見通しだ」って顔。ああバレてるな、と思ったらもう隠してるのもバカバカしくなって、「本当はプチ整形して二重にしたんですよ。よくわかりましたね」ってカミングアウトしちゃった。

それにしてもみんな、ひとのことよく見てるよね。あたし、ひとりだけ年齢が離れてるじゃん?だからミソ扱いっていうか部外者みたいな感じでラクだったんだけど、認識、甘かったね。やっと気づいたよ。遅いってな。

 

でさ、午前のうちにはもう整形のこと、会社中に知れ渡ったみたいなんだよね。早いよ、まじ早い。

やつらの伝達能力をあなどってた。あたし、午前中にいつも社内のお昼のお弁当の注文取ってまわるのね。その日の注文数をまとめて、近所の弁当屋にデリバリーを発注すんの。その日も営業部のある3階へ上がってさ、ついでにトイレへ寄ってこうかなー、と思って行ったわけよ。女子トイレに。したらさー、ドアあける前に声が聞こえんの。

 

「......らしいのよ。まったく親がかわいそうだわ。せっかく健康に産んだのにねえ」

「それってあの、プチ整形ってやつかしら」

 

もーね、誰がしゃべってんのか、すぐわかった。花園さんと畑山さん。花園さんは"総務部のエリザベス女王"で、畑山さんは"侍女その1"なの。なにそれって、社内でそう呼ばれてんのよ。単に会社創業当時からいるからって理由みたいよ。もちろんふたりとも普通にスーパーで買い物してるような普通のおばちゃんだし、侍女その1がいるんなら、その2は一体誰だよって感じなんだけど。

で、そのふたりがすげー喋ってんのよ、あたしのネタで。

 

「プチだかブチだか知らないけど、いつもの糊、今日はくっついてないのよ。あの子、いつもまぶたに糊つけてたじゃない」

「ああ、アイプチ。やってたわ。あれって肌が荒れないのかしら」

「なんだか知らないけど、糊よ糊。まったくエビちゃん気取りもいい加減にしてほしいわよ」

 

は?ですよ、まじで。エビすか、みたいな。あたしそんな美人を気取っちゃっていいんすか、みたいな。ていうか気取ってないって。そもそも目指してないし......まあ、あんな美人だったらどんだけ人生楽しいんだろ、とは思うけどさ。

 

「あの子、絶対エビちゃんみたいになりたいのよ。ほら、なんだっけ?イマル?イマルみたいな男、狙ってるのよ」

「ああ、イルマリね。どうなるのかしらね、あのふたり」

すげー畑山さん、話あわせつつなにげに女王を訂正してんじゃん。さすが侍女!とか思って、ちょっと笑ったんだけど。

 

「私、ふと思っちゃったわ。うちの息子、あの子と同年代じゃない。息子があの子みたいな女を連れてきて、結婚したいって言い出したらどうしようって。もう絶対に反対するわよ。絶対反対よ。嫁にしたくない女ナンバーワンよ」

「そうねえ。嫁にはしたくないわねえ」

「ああいう子が嫁だったら、絶対いびり倒してやるわ!」

「いいわねえ、それ」

 

ちょっといずみちゃん、ここ笑うとこじゃないって。

だって"嫁にしたくない女ナンバーワン"だよ?いびり倒してやりたくなるような人間なんだよ?あたし的には、当たり障りがないようにやってきたつもりなのに、あたしがぜんぜん知らないところで、当たってたし障ってたのかと思ったら、やっぱり落ちるし考えるよ。

ああもう、めんどくせー。会社なんて辞めちゃおっかな。ま、辞めないけどね。お金欲しいし、クビにされるまで図々しく居座ってやる。

 

おまけに忘れてたんだよね。今の会社、伯母さんから紹介してもらったこと。忘れてたあたしもあたしだけど。つーわけで、その日の夜に、いきなり実家の母親から電話がかかってきたの。

プロフィール

◆松永まき◆
8月28日、東京都生まれ。
某童話賞と某掌編小説賞を受賞(別名で執筆)。
オーディオドラマ『レッツ・キャラメライズ!』原作担当。
→こちらで聴くことができます。
地味めに生きてます。

カレンダ

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