2009年11月アーカイブ

志保は迷走中 4

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「しーちゃんが満足してるなら、私はいいと思うんだけど、やっぱりフクザツなわけよ」

由香をだっこしたいずみが、まだぐずぐず泣いている由香を見つめたまま言う。

「だってほら、由香も私とおんなじで完全に一重でしょう?そのうち大きくなって、整形したいなんて言い出したらどうしよう。反対するかもしれないなあ。しーちゃんのご両親には言ったの?」

 

志保のテンションが少し落ちたのに気づき、いずみはあわてて言葉を探した。志保は友達として自分と話をしていたのだろうに、いきなり親目線で答えたのは反則だったかもしれない。志保の友達としてのいずみは、手術跡がゆがんだりひきつったりせずに、志保の満足いく結果になればいいと思う。もしまったくの他人なら「よくやるね」のひとことで終わる。

 

親としての自分は?元教師としての自分は?女として自分は?

 

いろいろな立ち位置の自分がいて、どこがいちばんちょうどいい位置なのか、ときどき見失ってしまうのだ。

 

「別にしーちゃんの整形に文句言ってるわけじゃないんだよ。でもなんていうか......」

と、いずみはとりつくろうように加えた。

「親にはまだ言ってないし、言わないよ。今までもアイプチとかやってたから、たぶん気付かないって。うちの会社の人たちもぜーったい気付かない。だってジジイとババアしかいないんだもん」

「でもあさってにはもう会社行くんでしょ?まだ腫れたままなんじゃないの?」

「大丈夫。てきとうにごまかせるよ。中年と老人しかいないんだもん、気づくわけないって」

芽衣子といずみの反応はイマイチだけど、まあいいや。別にふたりのリアクションが欲しくて整形したわけじゃないんだし。

志保はピンク色に腫れたまぶたで、いずみと芽衣子にピースをした。

 

日曜日、志保は1日じゅう部屋の中でだらだらし、寝る間際に鏡を見てまぶたの腫れ具合をチェックした。ほとんど腫れていない。インターネットの口コミで評判の良い整形外科を選んだ甲斐があったな、と志保は思った。

思いつきで行動することが多い志保だけれど、今回ばかりは違った。プチ整形とはいえ、ケガをしたわけでもないのに体の一部を糸で縫いつけるのだ。失敗はしたくない。それに、子供のころからのコンプレックスを、自分で稼いだお金で拭い去れるのだと思うと、力が入った。安い料金で施術する病院もあったけれど、志保は志保なりに長い時間をかけて調べ、信用できそうな外科を選んだ。もし失敗しても、医者を恨むまいとさえ思った。だって自分で選んだのだから。だから満足している。

 

鏡に向かい、自分を励ますように何度かうなづく。そして目覚まし時計のアラームをオンにして、志保はベッドにもぐった。

 

翌日、いつものように出勤した。昔からある工業エリアの中の小さな工場が、志保の職場だった。1階は旋盤などがある工場で、2階と3階は事務所。志保はそこの経理部にいて、もう5年も働いている。志保以外は全員40才を超えていて、女性社員は地味な紺色のベストとタイトスカートを制服として身につけている。地味さマックス。

そもそもこの職場で長く働くつもりはなかったのだ。

 

志保は高校を卒業すると、親に強制的に押し切られビジネス系の専門学校に入学した。本当はファッションとかエンターテイメントとか、そういう派手でおもしろそうな学校に行きたかったのだけれど、そんな学校に行くなら学費は出さないと親が反対した。両親としては、安定志向の木崎家らしからぬ志保を心配して、せめて堅実な資格を身につけてもらいたいと思ったのだ。志保も志保で、学費を自分で出すほどの情熱もなかったから、おとなしく親のすすめに従った。

 

親の心配をよそに、志保はまともな就職活動をしなかった。卒業すると近くの駅ビルにあるショップでアルバイトを始めた。最初の店では服を売る店で、次の店ではアクセサリーを売り、次の店では服も靴もアクセサリーも売る店だった。いろいろなものを売りながら2年間楽しく過ごし、そんなある日、伯母から今の職場を紹介された。

「経理のベテランがひとり定年退職するのよ。若い人を入れたいらしいから、志保ちゃんはどうかと思って。志保ちゃん、学校で経理の勉強してたでしょう?こんなご時世に社員として使ってもらえるなんてラッキーな話よ」

確かにラッキーかもしれない。給料はアルバイトよりかなりいいし、少ないけれどボーナスも出る。それに、付き合っている彼がしょっちゅう志保に説教するのだ。

「もっとちゃんとしなよ」

 

ちゃんとしなよ。志保はなにがしたいの。やりたいことってないの。人生の夢とか目標とかないの。

 

そう言われると、自分にはなにもないということを痛いほど感じた。志保はしょんぼりしてしまった。だから社員になってみた。なってみると、ほとんど残業のないその会社はとても居心地がよくて、気づけば5年も経ってしまったのだ。その間に、説教好きの彼とは別れた。

 

この会社の居心地のよさは、なんといっても社員が親ほどの年齢ばかりという点にある。平均年齢をひとりでぐんと引き下げている志保は、若いというだけで特別扱いだった。その代わり、この会社で社内恋愛ということはあり得ない。だから、いろいろな意味でラクなのだ。てきとうににこにこして、てきとうにぼんやりしていればいい。

というわけで、この職場で整形に気付く人がいるはずはない、と志保はのんきに構えていた。中高年の観察眼をあなどっていたのだ。社長の後頭部に現れた寝ぐせで会社の経営危機を察知したり、静岡土産だと言い「こっこ」を配る営業部の男のすまし顔からそろそろ男の離婚は近いと見抜いたりする、恐るべき中高年の観察眼を。

志保は迷走中 3

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P1000016.effected_m.jpg 「それ、じゅうぶん腫れてるじゃない!痛くないの?」

といずみが志保の顔をのぞきこむ。志保のうわまぶたは、わずかにピンク色を帯びて、ふっくりむくんだようになっていた。

「もう痛くないし、手術後2日でこの腫れ具合って、たぶんあんまり腫れてない方だと思うんだけど。もっと腫れる人は腫れるよね、メイ先輩?」

「なんで私に振る?」

「だってBAの人って整形してる人多そうだし」

「まあ、いなくもないけど、極秘事項はやっぱりお互いに話さないからなあ。お客さんの整形はメイクしててわかる時もあるよ。ああこれ糸の結び目だな、って。そういう時は心持ち目元をソフトに扱うの。糸がほどけた、なんてクレームつけられても困るから」

「やっぱりわかるんだ。さすがプロだね」いずみはしきりに感心しながらも、視線は志保のまぶたに釘付けだった。「なんていうか、私のまわりは普通の人間ばっかりだから、整形なんてしてる人はいないのよ。しーちゃんが初めてだ。初めて見た」

 

「そお?」

志保は少し得意げになりながら、心の中では「あたしなんてうんざりするくらい普通だよ」と思った。親はふたりとも公務員で、3つ年上の姉も市役所に就職し、職場結婚をした。地味でまじめな木崎家。志保が、自分の家族の地味さに気づいたのは小学校4年生の夏休み、家族で宮崎旅行にでかけた時のことだ。

 

ビーチはさんさんと太陽が照りつけていてまぶしかった。両親は海に入らず、貸しパラソルの下にシートを敷いて座り、志保は姉と一緒に浅瀬で遊んだ。しばらくして姉は体が冷えたらしく、「先にあがるから志保もすぐ来なよ」と言い残して、パラソルの下へ歩いて行った。志保はまだ遊んでいたかったけれど、叱られるのも嫌だったので、浮き輪を抱えて海からあがった。

 

色とりどりのパラソルで花が咲いたようなビーチを見渡す。赤、青、緑、黄色。砂の上にはさまざまな色と模様があふれていた。水着の色もビーチを華やかにしている。花柄の水着、青と白のストライプのビキニ、迷彩色のトランクス。

 

その中で、ひときわ地味なたたずまいのパラソルがあった。いや、パラソル自体は派手なオレンジ色なのに、その下にいる人間がみんな地味だったのだ。紺色のワンピース水着を着ている母、紺色のトランクスに紺色のTシャツを着ている父、姉にいたっては紺色のスクール水着だ。

そして志保が着ているのもスクール水着だった。

 

ぜんぜんかわいくない。ぜんぜんおもしろくない。

 

それまでなんとも思わずに着ていたスクール水着が、突然むしょうに恥ずかしくなった。

次の日から旅行を終えるまでの3日間、志保はずっと機嫌が悪く、両親にさんざん叱られた。しかし志保はこの旅行で、宮崎の海に誓ったのだった。

「あたしはかわいく、おもしろく生きるんだ!」

 

とはいえ、木崎家にしみついた地味さとまじめさは、志保の意に反して志保の中にも引き継がれていて、何をやってもいまいち思いきれないところがあった。整形といっても、たかが埋没法止まりだ。志保としては、その中途半端さもコンプレックスのひとつで、だから誰かをうらやましがってしまう。その結果、服装も行動もしっくり定まらない。

 

「整形っていっても、切ってないんだよ?あ、由香が起きたっぽい」

ほんとだ、といずみはベビーベッドへ小走りし、泣き始めた由香を抱き起こして言った。

「でも私にしてみれば立派な整形手術だよ。今の若い子はそういうの普通なの?メイちゃん、どうなの?」

「だからなんで私に振るのよ。だいたい志保も私ももう若くないし。年齢に関係なく、整形する人はすると思うよ。お金とリスクをかけてでも整形すれば幸せになるはず、って思えば整形するし、そう思わない人はしないだろうし。志保は幸せになれると思うから整形したんでしょ?」

「......まあ、そうだけど」

「あと、環境もあると思う。整形経験のある人がまわりにいると、抵抗なくいじるよね。志保って友達に整形した人いるでしょ?」

「......まあ、いるよ。その子ね、3人姉妹の一番下なんだけど、二十歳の誕生日に埋没やったの。上のお姉ちゃんふたりは、もっとやってる」

「やっぱりね。で、志保は満足してるんでしょ。まだ腫れてるからわかんないか」

「わかんなくない!わかる!満足してるよ!......なんでそういう冷たいこと言うかな」

志保が芽衣子の腕にすがりつくと、芽衣子はニヤッと笑った。

 

志保は行動力だけはあるのに、いつでも焦点が定まっていないのだ。欲しいものがありすぎて、何が欲しいのかわからなくなってしまうタイプ。しかも打たれ強いから、失敗しても手を変え品を変え、あれこれ挑戦を繰り返す。だから芽衣子は、ついつい突き放したことを言ってしまう。そうしないと、志保は本当の答えをなかなか見つけ出さないような気がして。

 

芽衣子はそういう志保が嫌いじゃない。むしろ、素直でいいと思っていた。その素直さが自分にもあれば、もう少し物事がうまく回るんじゃないかとさえ、思う。

志保は迷走中 2

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左目は調子が良ければ奥二重、右目は完璧な一重なのが、志保の長年のコンプレックスの中でも最大級のものだった。ここ数年は高性能な二重用ツールを使っていたけれど、塗ったり乾かしたりが面倒くさくなって、ついに整形外科の予約を入れたのだ。

二点留めの埋没法で、両目の施術は8万円ちょっと。27才、会社員で独り暮らし、現在のところ彼氏もいない志保にとっては、買えない買い物じゃない。

 

志保が務めている会社は、この不景気のせいで今期から金曜日が休業になってしまった。普通なら、今後の生活を考えて出費を抑えるところなのに、志保は「ちょうどいいじゃん」と考えた。

木曜だけ有休を出せば4日休むことができる。給料が減ってしまうのは痛いけれど、手術のために温存しておいた貯金もある。だったらお金のあるうちにやっちゃおう。

 

アリとキリギリスなら、志保は完全にキリギリスだ。

 

「じゃあ早く買い物して、早くいずみちゃんちに行こう。早く見たいもん」

「まだちょっと腫れてますよ。というわけで、今日はあたし酒やめとくっす。ノンアルコールビール、買う」

「お茶とかジュースにしとけば?」

「やだ。それじゃつまんないじゃん」

 

ふたりは商店街を通り、途中でスーパーに寄り、及川いずみの住むマンションへ向かう。駅から歩いて15分ほど、5階建ての3階の真ん中が及川家だ。四角い建物の、ちょうど中央。ドアホンを鳴らすと、ナイキのTシャツと短パン姿のいずみが現れた。

「おう、いらっしゃい」

ノーメイクの頬には、薄くそばかすが浮いている。こんな無防備な35才はたいてい、生活に疲れたオバサンに見えてしまうのに、いずみの場合はなぜかトレーニング中のアスリートに見える。それはおそらく、いずみが元陸上選手だったせいだろう。

そんじょそこらのTシャツ短パンノーメイクとは年期の入り方が違うのだ。

 

「つーかその格好、これから運動会でもやる気っすか?気、抜きすぎだよ」

志保がそう言うと、いずみは元気よく笑った。"元気よく"という言葉がよく似合う。

「だって今日のお客さんは、どうせメイちゃんとしーちゃんだし、おしゃれする必要もないでしょうが」

「はいはい。どうせお客はうちらですよ」

 

いずみは元高校の体育教師。5年前に再会して以来、3人は友達づきあいをしているけれど、かつては教師と生徒だったのだ。いずみが新任で赴任したときに、芽衣子は3年生、志保が1年生だった。

あれから12年経ち、それぞれの生活はずいぶん変わった。いずみは結婚し、教師を辞めて、子供をふたり産んだ。12年の月日は、生まれたての子供が小学校を卒業するほど長いはずなのに、いずみは教え子の制服姿を昨日のことのように思い出すことができる。

大人の時間はなんて短いんだろう、といずみは思った。

 

いずみの膝のうしろには、彼女と同じようなスポーツ用の服を着た男の子がぴったりとくっついて、恥ずかしそうにニヤッと笑う。そしてまた膝のうしろに隠れた。

2才になったいずみの息子、悠太だ。

「悠太、久しぶりじゃーん。今日はしーちゃん、おめめ痛いからあんまり遊んでやらないからね」

志保がかがんで抱きつこうとすると、悠太はそっぽを向いて腕をぶらぶらさせた。いずみが苦笑いする。

「悠太あんた、こんにちはって言わないの?言いなよー。メイちゃんとしーちゃんだよ?おぼえてるでしょ?なーんかこの子、最近恥ずかしがり屋さんなのよ。ほんと2才児って、なに考えてるかわかんない」

 

悠太は、芽衣子と志保をちらっと見ると、うきゃーと大声をあげながら部屋の奥へ走っていく。

「うきゃー、ってなによ?子供のテンションってマジわかんねー」と志保はぶつぶつ言いながら、悠太のあとをついていった。

 

及川家は間取り2Kの賃貸マンションで、お世辞にも広いとは言えない。ソファのすぐ横にはベビーベッドが置いてあり、7か月になった由香はそこで、額にうっすら汗をかきながら熟睡していた。芽衣子はベビーベッドをのぞき、枕もとにあったタオルで由香の額をぬぐう。

いずみは、ありがとねと言いかけて、芽衣子の表情が曇っていることに気付いた。うすぼんやり、まるでなにか別のことを考えているかのようで、思わず声をかけてしまう。

「メイちゃん、どうした?」

「ん?なんでもないよ。よく寝てるな、と思って」芽衣子はつくろうように笑った。

「それより、志保の目だよ」

「お、そうだ。今日の大ネタはそれだった!しーちゃん、こっち来てみ」

 

いずみは片手を腰にあてて仁王立ちになり、悠太にちょっかいを出している志保を手招きで呼び寄せた。

「とりあえず、サングラスをはずしてもらいましょうか。まだ腫れてるんだよね?」

「ふたりが期待してるほど腫れてないって」

いずみは好奇心まるだしの顔、芽衣子は診察前の医者のような顔をしている。ふたりの視線にちょっとうろたえて、志保は数歩あとずさる。

「ちょっと待って、今はずすから」

 

志保は下を向き、注意深い手つきでサングラスをはずす。

そして顔を上げ、頬にかかった髪を指で払った。

 

志保は迷走中 1

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P1000050_1.jpg_effected.jpg上を見たらキリがないし、下を見たってキリがない。

私は今、幸せなの?それとも不幸せなの?

他人と比べたところで答えなんて出てこないことはわかっているのに。

それでも、高い空を見上げて、太陽のまぶしさに目を細めてしまう。

深い谷底をのぞきこんで、私の居場所の方がまだ太陽に近いと安心してしまう。

「ここでいい」ではなく「ここがいい」と思えるような愛おしい場所は、いつになったら見つけられるのだろう。

 

■□■□■□■□■□■□■

 

たとえば木崎志保。

志保は今、土曜日午後12時半の電車の中で、目の前に座っている女の子の髪を、ギャル風の大きめなサングラス越しにじいっと見ている。

この子、学生かな。根本の色が変わってないってことは、カラーやったばっかか。この髪型、いいな。こいうの、やりたいんだよな。ていうかさ、元がサラサラの髪だからこんなゆるパーマでもかわいいけど、あたし、髪かたいし多し。無理っぽい。

 

女の子が視線に気づかないのをいいことに、5駅分たっぷり髪を凝視して電車を降りる。ここで芽衣子と待ち合わせをしているのだ。予定より10分遅刻。改札の外は、線路に沿って昔ながらの商店街が続いていて、商店街からななめにのびる遊歩道は、街路樹の緑が鮮やかだ。

芽衣子は春らしいシフォンのトップスを着て、券売機の前にいた。志保が正面に立っても、芽衣子がちっとも気づかない様子なので、大きく手を振って声をかけた。

「遅れてごめん」

「志保か!誰かと思った」

芽衣子は驚いて、大きい目がさらに大きくなる。そして微笑むとかわいらしく瞳がうるむ。

 

いつ見ても芽衣子は美人だな、と志保は思った。

お肌、つるつる。毛穴、限りなくゼロに近い。さすが百貨店でBAをやっているだけある。背はそれほど高くないけれど、小顔だし細いからバランスがいい。美人の人生って、きっと何かと得なんだろうな。若干イラっとする。と嫉妬の種火が点くものの、ここは大人として平静を装うのが礼儀......のはずなのだが、志保の場合は装えない。

「つーかメイ先輩、美人でむかつくんですけど」

遅刻した人にいきなりむかつかれても、と芽衣子は思ったけれど、志保の言うことをいちいち拾っていたら、つっこみどころが多すぎて疲れてしまう。芽衣子は真顔のままスルーして話題を変えた。

「ところで、今日はなんでギャル系なの?」

「え?だって、ほら、その......」

志保がサングラスのフレームを両手で押さえて、少し後ずさる。

「だって今日は絶対サングラス必要だから、そこ基本に全身合わせたらこうなったっていうか」

 

志保の服のテイストが、会うたびにころころ変わるのを、芽衣子はもう見慣れていた。なにしろ、高校時代からお互いを知っている。沢村芽衣子は、志保が1年生の時の3年生で、ふたりは同じ部活に所属していた。志保の気まぐれは見慣れているけれど、必ずつっこんでみるのが、ふたりの間での"お約束"みたいなものなのだ。

「微妙にわかるような、わからないような......それはともかく、ちょっとサングラス取って見せて」

芽衣子が言うと、

「ダメ!あとで!いずみちゃんちに着いたら見せるから!」

志保は答えて、さらにおおげさに3歩あとずさった。

 

志保が今日、サングラスをしているのには理由がある。

おとといの木曜日に、有休を取って二重の手術をしてきたばかりなのだ。

 

プロフィール

◆松永まき◆
8月28日、東京都生まれ。
某童話賞と某掌編小説賞を受賞(別名で執筆)。
オーディオドラマ『レッツ・キャラメライズ!』原作担当。
→こちらで聴くことができます。
地味めに生きてます。

カレンダ

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