CMの企画って難しい

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シーズン真っ盛りの槍ヶ岳頂上で男性タレントがちゃぶ台を前にインスタントラーメンを食べているところをヘリから空撮するという。

大手食品メーカーのラーメンのブランドリニューアル広告だ。

最近はハリウッド映画を見れば分かるようにCGI技術が発達し、どんな難しい撮影状況であってもコンピューター上に再現する事が可能だ。しかし実写の強さ、真実の持つ強烈なインパクトはコンピューターのモニター上の虚構を超える。クリエーターなら誰でもそう思う。

でもシーズン中の槍ヶ岳頂上でそれが実施出来るとは冷静に考えれば誰も思わない。

しかし今回実施の決定がなされ、現実に撮影に向かって全ての準備は進んでいった。

2010年8月3日、男性タレントは真面目に早朝から槍ヶ岳に登り、美術部は真面目にちゃぶ台を抱えて槍ヶ岳に登り、制作部は真面目に熱湯をポットに入れて槍ヶ岳に登り、APは真面目に商品と箸を大事に抱えて槍ヶ岳に登り、ヘリコプターのパイロットは危険性をどう排除するか、太陽の位置を計算しながら真面目にカメラマンを乗せてヘリポートから槍ヶ岳頂上に向かって飛び立った。全員が真面目に取り組んだ。

 

"For the Client"

この広告主は昔から広告の可能性に対して挑戦する心を持つ広告主だ、広告上手。こちらの広告を担当する事で育ったクリエイターも沢山いる。

クリエイター達は無限の挑戦をさせてくれるこの広告主に対して次々と人のやらない、いや思いもつかないアイディアを出し続けてきたのだろう。

以前有名なクリエイターの言葉で『目立つだけなら裸の女性を出せばいい、それをしないのが上手な広告だ』と聞いた。

人がやった事も無い、思いもつかない事を考え続ける、それがTVCMの企画。

 

朝日新聞にあの投書が載らなかったら、あのCMは既にオンエアーされ、かなりの評判になり、CMのコンクールでも入賞したかもしれない。アイディアを出したクリエイターも社内外で賞賛されたでしょう。

同じCM制作業界に所属する者としてCMの企画が世間の常識を外れても目立てば良い、そんな突飛な事ばかりを考え、実行するのがお前らの会社の仕事かと判断されるのが辛い。

槍ヶ岳の頂上で男がワシワシと新製品のラーメンをかっ食らう。

シュールな馬鹿、訳の分からぬ可笑しさ。ヒューマニティー。思わずニヤリとしてしまう可笑しさ。泣いてしまうほど悲しい馬鹿。

一昨年亡くなった市川準サンも得意とした世界だ。

 

やっぱり、まだまだ表現の枠は無限大なんだ。

CMクリエイターの皆さん、今回の一件にめげず、まだまだ新しい発見に務めようぜ。

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 今から30年以上も前のことですが、某洗剤メーカーのCMに携わったことがあります。取り立てて斬新なアイデアでもなく、主演者も並のタレント、映像に趣向を凝らしたわけでもない、言ってみれば月並みな、ストレートなCMでした。もちろん、ACCに出品しようなどとは誰も考えませんでした。
 ところが、納品して半年ほど経って、そんなCMことは忘れてしまった頃、メーカーからお呼びがかかりました。赤坂の土佐料理店「ねぼけ」への招待です。代理店、監督、カメラマン、われわれ制作会社スタッフを前に、メーカー宣伝担当者が深々と頭を下げて「あのCMのお蔭で、売り上げを大きく伸ばすことが出来ました。ありがとうございました」とのこと。
 え~?ほんとかいな。あの程度のCMで?と私だけでなくみんな思ったはずです。もしかしたら、監督さえも。営業さんの努力じゃないの?他の媒体がよかったんじゃない?と思いながらも面はゆさを感じながらも、皿理をしっかり美味しく頂きました。帰りには製品の詰め合わせセットのお土産までもらって。
 しかし、考えてみれば日本を代表するメーカーの宣伝部です。あながちCMの効果じゃないとは言えません。それなりの調査に基づいて、CMが売り上げに貢献したと判断したのでしょう。CMと宣伝効果のギャップについて考えさせられた思い出です。
 たしかに、パワフルな、インパクトのある表現は訴求力もあり、一定の効果もあるに違いありません。ただ、日本のCMはそれに走るあまり、商品の本質とは無関係のないものも目立ちます。アメリカなどの場合、あくまでも商品の特長やメリットに絡めたパンチ力ある表現が重視されてる気がします。
 また、「裸の女性」とまでいかなくても、「子供と動物」を出せば間違いない、と当時から言われていましたが、今でもそれは生きているようですね。トヨタしかり、ソフトバンクしかり。

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